水師営の別館

Twitterで呟ききれなかったことや最近気になったことを書くブログです。あと早期リタイアを夢見て入社1年目から少しずつ準備しています。

問題の多い裁量労働制

裁量労働制という聞き慣れない言葉

政府は今国会で「働き方改革」を推進するための一連の法案を通そうとしている。史上初となる、時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金に向けた法整備などが盛り込まれているのだ。一方で、柔軟な働き方に対応するとして「高度プロフェッショナル制度」の導入など、労組や野党を中心に長年懸念が示されてきたものについても同時に成立させることを目標にしている。


しかし、高度プロフェッショナル制度は年収1075万円以上の専門職を対象とし、複数の条件をクリアして成立するため世論の反応は乏しいのが現状だ。むしろ年収要件がなく、適応範囲が曖昧な「裁量労働制」の「企画業務型における範囲拡大」に対する不安が高まっている。対象の拡大についての可否や働く我々にとって利益がある制度なのかについて今回は考えていきたい。


労働時間は短くなるか?

結論から申し上げると私は「裁量労働制」に反対であり、これが導入されても労働時間の短縮や労働環境の向上にはつながらないと考える。そもそも裁量労働制は「労働時間に関係なく、事前に労使で定めた時間働いたとみなし、自らの裁量でもって業務にあたる時間配分や業務手段などを決めることができる」という制度である。詳しくは専門家の説明を見てもらいたい。


自分で出退勤の時間を決められるなら労働時間は短縮するだろうと思われるが、残念ながら現状、裁量労働制で働く人の方が労働時間は長い。なぜなら単純に「残業」という概念がなくなることで、経営者としてはより働かせても人件費はかからないと考え、長時間労働のための制度として悪用されがちだからだ。(制度の本意は「働かせ放題」を全く肯定していないのだが。)


また労働時間ではなく「成果」で評価する業務に適応されるのが裁量労働制であるために、成果を出そうと労働者が時に熱心に、時に追い込まれるために、長時間労働を招くというのが現状だ。法案では前述したように対象範囲の拡大を目指すものであるが、そのような労働者不利な現状の制度に当てはめることで何が起こるかは容易に想像することができるだろう。


雇用風土や制度とのねじれ

また自由に出退勤ができるという触れ込みであるが、会社から暗黙の了解として指定されることが多い。さらに上司の命令に基づいて業務を遂行していればこれは裁量ある働き方とは言えない。単に「時間外労働の管理」を緩和させるために導入することは禁じられていると理解しておかなければならない。


日本の雇用制度では「人に仕事」がつく。したがって部を横断した人事異動は当然のようにあり、営業から総務や企画から広報なんていうことも十分に考えられる。裁量労働制は「(特定の)仕事に人」がつくことを前提した仕組みだ。このねじれを解消しないまま制度を拡大すれば、成果を求めて働けば働くほど新たな仕事が課されるという悲劇が各地で起こりかねない。


人に仕事か、仕事に人か、どちらがいいかは断言できないが、意図せざる雇用のねじれは労働環境にメリットを与えるとは言えないだろう。


営業マンも裁量労働制に?

ここまでは現在の裁量労働制の不備や実態の問題点を挙げて批判した。今回話題になっているのは問題山積の制度が拡大して、営業にも適応されるのではないかということである。もちろんすべての営業が対象ではない。問題なのはどこまでが対象で、どこまでが対象ではないのか議論が進んでいないことである。


営業と言えども、新規開拓なのか既存のお客相手なのか、あるいは消費者相手なのか法人相手かでその業務内容は大きく異なる。実に概念が広いため、この区分けを厳格に定義しておかないと「君は営業だから裁量労働制ね」と言われかねない。そもそも企画業務型裁量労働制に移行するためには労使の合意の他に、対象者の同意や対象者が3~5年の経験を経ていることが前提だ。しかし企業と従業員個人の力関係から正常な合意がなされるかは不透明だ。


現行の制度検証を優先すべき

現在は営業職には裁量労働制をする資格はない。しかし、ある不動産会社は企画業務型裁量労働制の社員に営業をさせたとして労働基準監督署から指導を受けた。裁量労働制を理由に残業代を支払っていなかったことが原因である。この例から分かるように営業職にまで概念を広めることは「柔軟な働き方実現」より「人件費圧縮」に経営層の目的があることは明白だ。


せっかく時間外労働の規制をしたとしても、適応外の人間を増やしては働き方改革の意味がない。裁量労働制の意味を履き違えて迷走する状況を是正して、信用に足る制度として運用することが先決であり、それが中途半端なまま範囲拡大の議論をしても国民が不幸になるだけだ。


残業代もなく、長時間労働で、年収の低い若手、中堅社員を増やしては消費も投資も盛んにならない。青年層の活力なき国家は斜陽の途を歩むだけだ。政府を中心に「柔軟な働き方」というニーズに応えたいという声もある。しかし景気がよくなれば自然と雇用は流動化し、人手不足解消のために労働者相手に柔軟な姿勢を取らざるを得なくなる。


若者にとってのニーズは「お金とお休み」であり、これこそが国家成長への源泉であることを自覚すべきでないだろうか。