水師営の別館

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【陣風賦】R1.12.13「近衛内閣と南京陥落」

岩波新書から出版された『近衛文麿』という本を現在、読み進めている。格式高い家を生まれに持ち、時代の要請する形で首相になった男の一生を描いた本だ。まだ読了はしておらず、ちょうど第一次内閣が終了したところで一旦、本を閉じた。


▼そして思えば今日、12月13日は第一次内閣下において始まった支那事変の大きな分岐点である南京攻略戦が終結した日である。敵首都を陥落せしめ、勝報に沸いた日本国民であったが、この勝どきは長い戦の始まりと戦前日本の体制崩壊への序章に過ぎなかった。


▼今もなお、南京攻略戦でどれほどの死者が発生し、組織的虐殺が行われたかいなかについては論争が続いている。ゼロから30万人まで隔たりは大きい。関心のある方はぜひ調べるとよいだろう。


▼そもそも敵首都を占領するまで大規模な軍事衝突になった段階である種の外交的失策を犯したのかもしれない。局地的解決に食い止められるか、その運命を変えられた一人に近衛文麿はいたはずであった。しかしなすがまま、首相としての指導力を発揮することはなかった。


▼とはいえ近衛文麿一人に責めを負わすには酷な時代背景もあったと言えよう。満州事変から始まり、度重なるクーデター未遂、五・一五事件二・二六事件と政治が切れる選択肢はいよいよ限られ、狭まっていった時代の中にいたからだ。


▼しかし国難と言うべき時代の舵を切る器がなく、その器の小ささを支えるに足るブレーンがいなかったことは日本の不幸であった。政治とは一人で進める事業ではない、そう思うと彼の元来から持つ「人間不信」と「孤独」が政治への選択と采配への大きな障害になった。


▼歴史にもしもはないが、もしも近衛に政治家として、否、人間としての「気骨」がはっきりあったならと想像してしまう。歴史的なこの日に、歴史の因果に左右されるがままだった男のその責任の重大さについてもう少し読み進めて噛み締めようと思う。